オーストラリア・ニュージーランド文学会

オーストラリアおよびニュージーランドの文学や文化に関心を持つ同好の士によって1979年に組織された文学会です。このサイトは、当会の情報拠点として、さまざまなお知らせをしていきます。

2021年度総会・研究大会終了

 さる7月9日、2021年度の総会と研究大会がオンラインにて開催されました。
 研究大会のゲストにお迎えしたのは、メルボルン大学名誉准教授で作曲家でもある Peter Wyllie Johnston先生。"Voices From a Restless Society 1920-2020: How a Century of Australian Musicals Revealed the Nature of Australian Culture" というタイトルでご講演いただきました。お忙しい中、宿泊先のホテルからお話ししてくださったジョンストン先生、ありがとうございました。

 続いて、乙黒麻記子会員と三宅一平会員による研究発表。質疑応答も活発になされました。研究発表の要旨は以下の通りです。

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サマセット・モームと南海の日本人—戦間期を中心に」乙黒 麻記子(日本大学

 サマセット・モームは1922年にトレス海峡南部の木曜島を訪れており、その際の手記は『作家の手帳』(1949)に収められている。後年、それは『片隅の人生』(1932)の一部に昇華されるが、『手帳』と『片隅』では真珠貝漁に携わる日本人潜水夫の描き方がかなり異なる印象を受ける。英米両国の諜報員として働いていたモームが、南海に進出する日本人をどのように注視し、また表象したかを、他作品に見られる日本人表象もふまえて考察したい。

 

「『狭間の国』に亡霊は潜む—Chris Womersley の Bereft における『物語』の諸相」三宅 一平(大阪大学

 本発表ではChris WomersleyのBereft (2011)を、主に登場人物の在り方の不安定性に注目しながら読み解く。作中では「現実」と「物語」の関係が多く言及される。ここで見られる虚実の混交が、トラウマ的記憶を抱えた登場人物たちに対し、いかに作用するのか。あるいは、それが小説の構造をいかに揺るがすのか。作品の舞台に蔓延するスペイン風邪による「病」の象徴性にも触れながら、登場人物の、“Australia was an in-between place”という言葉が、意味を脱臼させながら、作品に通底する主題となっている様を分析する。

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 総会報告は、後日アップいたします。